これはとてつもなく大きな愛を持った人の物語です。
この人物無しではどこかで破綻をきたしていたでしょう。
その人と関係のある人物の全員がどうやったら幸せになれるのかを考え実行します。
そしてそれを公言することは決してありません。
利他の塊のような人です。
富山県の大自然とこの人物がとても共通しているように感じました。
どっしりとしていてそこに居る人々を優しく見守ります。
時には厳しいと思えることも長い時間軸で見ると愛でしかありません。
そして鍵となるある本が2冊登場します。
本も登場タイミングも絶妙です。
サリンジャーさんが「ライ麦畑でつかまえて」の中で、
「良い本というのはその作者に電話をしたくなる」
というようなことをホールデン・コールフィールドくんに言わせていましたが、
「舞台となる土地に行きたくなる」
というのも良い本といえる理由の一つかもしれません。
宮本輝「田園発港行き自転車 下」
失敗や災難や苦労が、そのままで終わってしまうのなら、人間はなぜ人間として生まれ、この猥雑な汚濁にまみれた社会で生きていくのかということになる。
もう済んだことだよ。若いころには、いろんな失敗をするもんだよ。(中略) もう終ったんだ。『胸を張れ、前を向け』だよ。宇宙は途轍もなくでかいんだぞ。
よし。できる限りのことをしよう。何があっても愚痴は言わないぞ。俺たちのなかからは、落胆と絶望という言葉は消すぞ。
好不調はつねに繰り返しつづけるし、浮き沈みはつきものだが、自分のやるべきことを放棄しなければ、思いもよらなかった大きな褒美が突然やってくる。
苦労も心配も悲しみも必ず来るものだが、それが大きな幸福を生みだすのだと信じるかどうかなのでしょう。
読書空間 ひつじ日和