杞憂

 
 
 
幼い頃、両親の書棚をぼんやり眺める時、独特の妖しい雰囲気を放ち不安な気持ちにさせるこの箱入りの本が、いつも気にかかりました。
豊饒の海全四巻です。
 
触れたことのある三島由紀夫さんのいくつかの作品はどこか憂いがあったし、最後のエピソードもあって、ずっと捉え難い存在です。
 
暁の寺の途中で世界観について行けず断念。
子供時代からの気がかりは消えていませんが、春の雪だけは美しさを感じながら楽しめました。
 
香川県高松市にある栗林公園では、映画「春の雪」の冒頭シーンを撮影したそうです。
 
係の方にここは清顕と聡子が目が合うところだと説明を受けながら、ちょうど撮影した直後の栗林公園を、若い頃に歩いたことがあります。
 
当時既に頭の中には、小説と映画でイメージがしっかり出来上がっていたので、同じ場所でこっそりと、つい試しに「清さま」と呟いてみたら、ああ、もう超絶な違和感!
出掛けた相手が違った、ということにしておきます…。
 
先日、この箱入りの古い春の雪を、装丁に魅せられた若い女性が購入して下さいました。
旧字体が多くて難しそうですが、ゆっくり味わって読んでみたいと。
 
楽観的過ぎる見方をどうか怒らないで下さいとお願いした上ですが、憂いのごくごく一部分だけでも、杞憂でしたねとお伝えできるかもしれない、うれしい出来事でした。
 
 
 
 
 
 
 
 
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