墨いろ

 
 
 
 
志村ふくみさんの「色を奏でる」や「緋の舟」に出会ってから、色や光に敏感になっていましたが、こちらは墨の濃淡や線の世界。
 
107歳って途方もないです。
まだ半分にも満たない自分。最後の日がわかる訳ではないから、余計に果てしなく、ちっぽけです。読みながら感じるこの気持ちは山登りの時のようです。
 
長い歳月ひとつことに向き合い、極め、そぎ落とした先にあるようなものを捉えきれないのは仕方ないです。近しく感じられたことをもしあげさせてもらえるのならば、ひとつ。富士山を定点に想いを綴られた章(不二)があります。
 
例えば、緋色に一瞬染まる富士を見るために早起きをされたお話のように「墨いろの世界」を生み出す大元に、自然の中のさまざまな色彩や形をいつもみつめていらしたということ。
 
定点があると自分の想いが不思議とくっきりみえてしまいます。
 
ちょうど赤ちゃんもいて身動きのとりづらい時期、私は浅間山を見て暮らしていました。カーテンを開けると毎日どーんと浅間山。共通点はたった、山を見るということだけですが…。山を見るしかできなかった頃に感じた想いや色彩がよみがえってきます。
 
篠田桃紅さんの存在をその頃知っていたらどうだったでしょうか。
いえ、今だからよかったように思います。
 
 

篠田桃紅「墨いろ」

 

 
 
読書空間 ひつじ日和