標本

 
 
 
 
お客さまからたまにいただくひと言。 
 
「この本、購入してしまっていいですか?」
「もちろんです♪」
 
一応本屋さんなのに考えてみたら不思議。
きっと大事に収集しているイメージを持って下さるのかもしれません。
 
もちろん本への愛情はたっぷりと注いでおりますが、誰かのもとで楽しんでいただくのが最大の喜びです。
 
個人的には本に限らず収集癖は皆無。
余計なものは一切いらない派。
 
なのに、それなのに。
今日は正反対なこちらの本を…。
 
身近な愛すべきものたちを、より永く美しく楽しむためのインテリア標本の指南書です。
 
いわゆる標本らしい標本、植物や鉱物など自然に存在するものだけでなく、時を経たガラスびん、異国の古いラベルやミルクキャップなど、役目を終えたものたちが〈時の標本〉として生まれ変わるなんて…ときめきます。
 
本の終盤、テーマは標本からぐんと拡大して博物学にも触れられています。
 
15世紀イタリアで始まり後にヨーロッパで広まったWunderkammer(ヴンダーカンマー・ドイツ語)とは、しばしば〈驚異の部屋〉と訳されるそうで、人工物と自然物の区別なく珍しいものを集めて陳列した部屋のことです。
(鴨江の不思議なあのお店の名はそういう意味だったのね〜)
 
博物館の原点的要素の中にもそんな個人のマニアックな蒐集(しゅうしゅう)があるとのこと。
 
〈博物学は科学以前の学問だと言われていますが、最も純粋な人間の興味が生んだ「趣味」であり、科学と文学と美術の中間に存在するもの……〉
 
〈人類のさらなる発展に役立てるなんて大それた目的でなく、単純に自然にあるものが不思議で、美しいと感じ…標本に仕立て、飾り、にやにやしながら眺める幸せ。自分なりに楽しんだ博物学的行動は……〉
 
そんな著者の言葉にロマンを感じ、
「誰が何と言おうと楽しいのがいちばん!」
心の中で呟いたのでした。
 
 
 
 
 
 
 
 

さとう かよこ「標本BOOK」



 
 
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