我が立つそま

 
 
 
ひつじ日和で過ごすひと時、本との一期一会を快適に楽しんでいただけるよう心配りしていますと、この世にはさまざまな生き方があり、誰もがそれぞれの場所で輝いているように感じられてきます。
 
 
 
お客さまの余韻がインスピレーションを運んでくることもあります。
時間は伸びたり縮んだり、現在過去未来を同時に感じるようなことも。
自分がほんの幼子のようになり、またある時は老女のように思われる。
鏡に映るいつかの自分自身をみつけるたびに深い癒しに導かれます。
 
 
 
時間感覚が麻痺してきたついでに言いますと、「百年生きる時代」という感覚を受け入れられない気持ちがあります。
107歳まで生きた篠田桃紅さんは著書の中で、人がよく言う「あまり長生きしたくない」なんて偽りだと仰っています。
そう言い聞かせているだけで、生きている限り人生は未完だと。
ため息が出そうですね。
 
 
 
「明日終わったとしても大丈夫なように」
若さゆえそうありたいだけでしょうか。
「もうあと半分位はがんばってください」
考えたくないのは誰しも同じでしょうか。
 
 
 
桃紅さんが五十年来手元に置いていた書。
「我が立つそま」
杣(そま)とは山の急斜面でひと時安心できる平らな場所、という意があるそうです。
文学の上では自分が立ちうる場所。
 
 
 
長く平坦ではない人生の中でやっと得た、つかのま安心できる小さな自分の立ちうる場所に感謝し恵みを祈る。
もしかしたら、私たちも長い旅路、輪廻の中で、今この場所にいるとしたら…。
じわっと熱いものを感じました。
 
 
 

篠田桃紅「一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い」

 
 
 
 
読書空間 ひつじ日和